[リンさんの小さな子] フィリップ クローデル
「タオ・ライさん、あなたとこうしてここにいると、不思議なくらい落ち着いた気持ちになるんですよ」
給仕が料理を持ってやってくる。バルクさんは、最高のものを注文した。贅沢すぎるということはない。先日、港で過ごした午後のことを、彼は思い出す。胸にたまっていたものを洗いざらい話したこと、そのときの老人の仕草、そして思わず口を閉ざし、苦しみ、恥じたことを思い出す。それに値段などつけられない。
バルクさんとリンさんは食べ、そして飲む。リンさんは、それまで想像さえしたことのない料理を味わったいる。知らない料理ばかりかでれど、どの料理もとてもおいしい。太った男が注いでくれるぶどう酒をちびちび飲む。顔が少しほてる。食卓が揺れる。笑いがこぼれる。ときに料理を子供にも味合わせてやろうとするが、あまりお腹がすいていないようだ。聞き分けのいい子なのだが、食は進まない。バルクさんは笑顔でその様子を見ている。
デザートが済み、給仕が食卓を片付け終わったとき、太った男は、さっき座ったときに自分の横に置いた袋を手に取り、中からきれいな包みを取り出すと、それをリンさんに差し出した。
「プレゼントですよ!」ところが老人がためらっているので、さらに続けて「遠慮しないで、タオ・ライさん、あなたへのプレゼントなんだから! どうか受け取って!」
リンさんはその包みを受け取る。震えている。プレゼントには慣れていないのだ。
「さあ、開けて!」バルクさんは手振りを交えながら言う。
老人は慎重な手つきで包装紙をはがす。あまりにばか丁寧なうえに、手先が器用でないので、時間がかかる。髪をはがすと、きれいな箱が出てきた。
「さあ、さあ!」太った男は笑いながら相手を見ている。
リンさんは箱の蓋を開ける。中には、淡いピンク色の軽い薄葉紙がかかっている。それを取る。心臓が早鐘のように鳴る。小さな叫び声がもれる。丁寧に畳まれた豪華で繊細なプリンセス・ドレス。目もくらやむようなドレス。サン・ディウのためのドレス!
「これを着たらきれいだよ!」バルクさんは女のこのほうに目を向けながら言う。リンさんはドレスに触れることさえできない。汚したらたいへんだ。こんなに美しい衣服は見たことがない。しかもその服を、たった今、太った男がくれたのだ。リンさんの唇は、興奮のあまり震えが止まらない。彼はドレスを箱にしまうと、薄葉紙をかぶせ、蓋を閉めた。そして、バルクさんの両手を自分の両手で包み込むようにして、強く握り締める。とても強く。長々と。サン・ディウを抱き寄せる。リンさんの目が光り、友を見つめ、女の子を見つめると、やがて、か細い、ややしゃがれた震える声がレストランの中に響いた。
いつでも朝はある
いつでも朝日は戻ってくる
いつでも明日はある
いつかはおまえも母になる
歌が終わった。リンさんはバルクさんの前で、感謝の気持ちを示すために頭を下げる。
そして、老人は幸福そうに、小さな女の子をしっかりと抱きしめる。
□今日の読書 ★★★☆☆
![]() |
リンさんの小さな子 著者:フィリップ クローデル |
| 固定リンク



コメント