[少子高齢化ではなく、少産・多死化]
人口減少の原因はどきにあるのでしょうか。高名な人口学者は「少子化のためだ」と主張し、新聞やテレビも「少子・高齢化のためだ」ときめつけています。が、いずれも現実を見誤った見解にすぎません。
人口の増減は、海外からの転出入がない限り、出生数と死亡数で決まります。出生数が死亡数より多ければ増え、少なければ減ります。少子化でいくら出生数が減ってもベビーはゼロにはなりません。なにがしかが生まれる以上、人口は前年より増えます。他方、高齢化で寿命が延びれば、死亡者は確実に減っていきますから、前年より減少分は減るはずです。
少子化でも出生数が存続し、高齢化で死亡数が減っていくとすれば、出生数と死亡数の差はプラスになる可能性があります。つまり、少子・高齢化だけで人口が減るとは限りません。増えることさえあります。「詭弁だ」といわれそうですが、物事を正確に表現すれば、「少子・高齢化で人口が減る」とはいえないのです。
では、なぜ人口が減るのでしょう。うそれは、2005年に死亡数が出生数を追い越したからです。生まれてくる人の数より死ぬ人の数が多くなる。そうなれば当然、人口は減っていきます。
出生数が減ることを、人口学の「人口転換」論では「少産」と表現しています。社会の進歩発展に伴って、人口動態は「多産多死」(高出生・高死亡)から「多産少死」(高出生・低死亡)へ、さらには「少産少死」(低出生・低死亡)に至るというものです。ここでいう「少産」という言葉には、出産数そのものの減少が意味されています。
この言葉に「化」をつけて「少産化」とすると、それが進む背景としては、
①出産適齢期にあたる女性人口が減ってきた、
②晩婚や非婚を選ぶ人たちが多くなってきた、
③結婚しても子供を作らない夫婦が増えてきた、
などが考えられます。その背景として、結婚・出産適齢期の人たちの間では、結婚したり子供を作ることより、自分の好みの生き方や暮らしを優先するという選択が増えていることがあげられます。
一方、死亡数が増えることも、人口転換論では「多死」と表現しています。この言葉を引き継いで「多死化」という言葉を使うと、その要因としては過去50年間、平均して三年に一歳ずつ伸びてきた平均寿命がそろそろ限界にちかづいたという事情があります。マスメディアなどではまだまだ延びると書いていますが、実際のところ、一歳延びるのに、今後10年間では五年、その後の10年間では九年もかかる、という段階に入っています。こうなると、すでに高年齢層の人口が増え始めていますから、死亡数も当然急増します。いわば、「高齢化がはじけて多死化」となるのです。
平均寿命が限界化したのは、現代の栄養水準や医療水準をもってしても、これ以上大幅な延命が不可能になってきたからです。栄養水準でいえば、昨今の豊か過ぎる食生活は逆に寿命を縮めています。医療水準でいえば、人工臓器や延命装置などを使用すれば、確かに100歳以上にまで寿命を延ばせるでしょう。だが、そのためには膨大なコストがかかりますから、一部の高額所得者はともかく、国民全体の寿命を延ばすまでには至りません。つまり、現代医学の最先端をもってしても、平均寿命を大幅に延ばすのはもはや無理な状況に入ってきました。
このように少産化の背景には、近代的な生活様式や現代医学の限界があります。要するに人口が減るのは、出生数が減って死亡数が増加する「少産・多死化」のためであり、「少子・高齢化が人口減少の原因」などといっているのは、まったく不可解なことです。
一部の工業先進国だけが高価な工業製品を生産し、大半の発展途上国は農業生産を担当する、というアンバランスな国際構造が進んでいました。こうした環境の下では、工業製品の価格が農産品より必然的に高くなりますから、高い工業製品を売って安い農産品を買うのは極めて賢明な方法でした。
戦後の日本はこうした方策を積極的に推進することで、本来なら7600万人程度の人口許容量を一気に1億2800万人へと伸ばしてきたのです。
[逆転する農工の立場]
ところが、こうした方策は今や限界に差し掛かっています。世界の産業分布では、発展途上国産品は工業化に伴う労働力の減少や農業用地の縮小などで、次第に供給不足へ向かっており、それに伴って価格も上昇し始めています。
実際、2007年に入ってから、世界の穀物需給は逼迫の様相を強めています。生産量はなお増加しているのですが、中国、インド、ブラジル、ロシアなどで消費量が急増しているうえ、バイオマス燃料原料用の需要が重なって、需給バランスが大きく崩れたからです。小麦、米、大豆などの穀物の期末在庫量は、世界人口を養うに必要な量に換算して、55日分しかありません。過去最低の水準であり、異常気象や穀物投機などが起これば、世界的な食糧パニックへ進むおそれもあるでしょう。
農林水産政策研究所が2003年末に行った、穀物価格の予想では、アジア地域の都市周辺部で、優良灌漑農地の多くが工業用地などへ転用されていることを考慮して、2030年までに、米は1.2倍、小麦は1.7倍、とうもろこしは1.6倍ほど上昇する、としていました。ところが、昨今の価格水準はすでにこの予測を超えています。
[マルサスの人口思想]
マルサスは1798年に「人口論」第一版を出版し、「人口は幾何級数的に増加するが、食糧は算術級数的にしか増加しないから、その帰結として窮乏と悪徳が訪れる」という有名な理論を発表しました。人口と食糧の間には伸び率の差があるから、必ずパニックへ突き進む、というのです。そのショッキングな内容で、この本はたちまちベストセラーになりましたが、同時に厳しい批判にも晒されました。そこで、マルサスは何度も書き直し、1826年にようやく第六版を完成させました。最終版でマルサスが到達した結論はおよそ次のようなものです。
①人口は生活資料(人間が生きていくために必要な食料や衣料などの生活物質)が増加するところでは、常に増加する。逆に生活資料によって必ず制約される。
②人口は幾何級数的(ねずみ算的)に増加し、生活資料は算術級数的(直線的)に増加するから、人口は常に生活資料の水準を超えて増加する。その結果、人口と生活資料の間には、必然的に不均衡が発生する。
③不均衡が発生すると、人口集団には是正しようとする力が働く。人口に対してはその増加を抑えようとする「能動的抑制(主として窮乏と罪悪)や「予防的抑制(主として結婚延期による出生の抑制)が、また生活資料に対してはその水準を高めようとする「人為的努力(耕地拡大や収穫拡大など)」が、それぞれ発生する。
④人為的努力によって改めてもたされる、あらたな均衡状態は、人口、生活資料とも以前より高い水準で実現される。
□今日の読書 ★★★☆☆
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